絵本・全三編・87枚

冨嶽百景

釣り人に扮した自画像
釣り人に扮した自画像(1835年)
北斎75歳の墨一色の絵本。絵を押すと、大きな絵と1枚ずつの解説が出ます

三十六景で世界一有名になった富士を、今度は「本」で百とおり描いた作品です。天保5年(1834年)、北斎75歳。一枚売りの錦絵だった三十六景と違い、こちらは手に取ってめくる絵本で、全三編・102図(ここには原本の見開き87枚で収録しています)。あえて色を使わず、墨一色と薄いねずみ色だけ。地味にしたのではなく、彫りと摺りの技を極限まで見せるための白黒です。

いちばん大事なページは、絵ではなく文章です。初編の巻末に、北斎自身がこう書いています。

「私は6歳から物の形を写す癖があり、70歳より前に描いたものは、じつに取るに足りない。73歳でようやく生き物や草木の骨格が少し分かってきた。86歳ではさらに腕が進み、90歳で奥義をきわめ、100歳で神妙の域に達し、110歳になれば、一点一画がそのまま生きているようになるだろう」

署名は「画狂老人卍」。世界一の波を描いた直後の人が、自分はまだ足りないと言い切っている。この百枚は、その言葉の証拠品です。

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